
ビジネスメールや会話でよく使われる「させていただきます」。一見すると丁寧で間違いのない表現に思えますが、実は“乱用”すると相手にくどさや違和感を与えてしまうこともあります。大切なのは、状況に合わせて「〜します」「〜いたします」といったシンプルな表現を使い分けること。
本記事では、「させていただきます」を多用することで起こる逆効果と、信頼される言葉遣いのポイントをわかりやすく解説します。
なぜ「させていただきます」が多用されるのか?
ビジネスメールや会話でよく見かける「させていただきます」。一見すると丁寧で無難な表現ですが、気づけば文章や会話の中に何度も登場してしまいがちです。なぜ、ここまで多用されるのでしょうか?背景には、ビジネスシーン特有の習慣と心理的な要因が関係しています。
ビジネスシーンでの万能フレーズ化
「させていただきます」は、敬語初心者からベテランまで幅広く使われる“万能フレーズ”になっています。
-
相手への配慮を示せる
「〜します」よりも「〜させていただきます」と言うことで、「勝手にやるのではなく、相手の了承があって行動する」というニュアンスを含められます。 -
場を取り繕える便利さ
とっさの返答やメール文面で「どう書けばいいか迷う」ときに、とりあえず付けておけば丁寧に聞こえるため、多用されがちです。 -
マナー研修やマニュアルで推奨されやすい
新人研修や接客マニュアルで「積極的に使うべき敬語」と紹介されるケースもあり、そのまま習慣化する人も少なくありません。
結果として「無難」「丁寧」という安心感から、必要以上に使われやすくなっています。
「謙虚さ」を示そうとする心理的背景
もうひとつの理由は、“失礼になりたくない”という心理です。
-
相手に不快に思われたくない
ビジネスでは上下関係や取引先との関係性が重要なため、「強すぎる表現は避けたい」という意識から、控えめな言い回しとして「させていただきます」が選ばれます。 -
日本語特有の“へりくだり文化”
日本語の敬語文化は「相手を立てる」ことが基本。そのため、「自分が主体で行う」という言い方を避け、「おかげで〜できる」というニュアンスを含む「させていただきます」に自然と流れてしまうのです。 -
責任を和らげたい意識
「やります」よりも「させていただきます」と言うことで、主張や断定を弱め、相手への配慮や柔らかさを加えようとする心理も働いています。
✅ まとめると、「させていただきます」が多用される背景には、無難で便利なフレーズとしての定着と、謙虚さを重視する日本人の心理が大きく関係しています。
「させていただきます」の連発がNGな理由

「させていただきます」は便利で丁寧な表現ですが、多用すると逆効果になることがあります。ビジネスの場で良かれと思って使っていても、実は相手にとっては「くどい」「違和感がある」と受け取られてしまう場合も少なくありません。ここでは、連発がNGとされる主な理由を整理します。
過剰な丁寧さでくどく聞こえる
「させていただきます」は、もともと文章が長くなる表現です。
-
例:
❌「本日はこちらの資料を送付させていただきます」
⭕「本日はこちらの資料を送付いたします」
上の例を比べるとわかるように、余分な言葉が入る分、文章がまわりくどくなり、テンポの悪さを生みます。メールや会話で何度も繰り返すと「丁寧すぎて不自然」「くどい」という印象を与えてしまうのです。
本来の意味から外れて不自然になる
「させていただく」は、本来 “相手の許可や恩恵を受けて行う行為” を表す敬語です。
-
正しい使い方:
「ご覧いただける機会をいただきましたので、発表させていただきます」 -
不自然な使い方:
「明日の会議に出席させていただきます」
会議出席のように、相手の特別な許可や恩恵が不要な場面で使うと、意味がずれてしまい、かえって違和感のある表現になります。つまり「乱用すると日本語の正しい敬語としては誤り」になりかねないのです。
相手に「不快感」や「違和感」を与えるリスク
「させていただきます」を連発すると、相手の受け取り方によっては次のようなマイナス効果があります。
-
大げさすぎてわざとらしい印象
「そこまで謙遜しなくてもいいのに」と思われる。 -
責任感が伝わらない
「します」と言い切るよりも弱い表現のため、「主体性がない」と感じられることもある。 -
文章や会話が読みにくくなる
特にメールでは同じフレーズが何度も出てくると、文章全体が重たく、読みづらくなる。
こうした点から、相手が「丁寧さ」よりも「不自然さ」を強く感じてしまうリスクがあるのです。
✅ 結論:
「させていただきます」は、使う場面を選べば丁寧さを伝えられる便利な表現ですが、多用すると“丁寧すぎて逆効果”になってしまいます。正しく使う基準を知り、必要以上に繰り返さないことが大切です。
正しく使うには?「させていただきます」の使用基準

「させていただきます」は便利な言葉ですが、乱用すると不自然さや違和感を生むことがあります。では、どのような場面で使うのが正しいのでしょうか?
ここでは 本来の意味 と 使用基準 を確認し、迷わずに使えるよう整理します。
本来の正しい用法とは
「させていただきます」は、謙譲語の一種で、次のような意味を含みます。
-
相手の許可を得て行う行為
-
相手の好意や恩恵を受けて実現できる行為
つまり、自分の行動が相手のおかげで成立する場合 にのみ使うのが正しいのです。
📌 例:正しい使い方
-
「ご出席の機会をいただきましたので、発表させていただきます」
-
「会場をお借りできましたので、ここで説明させていただきます」
このように「相手がいて初めて成り立つ行為」に使うと自然で丁寧に聞こえます。
「許可」や「恩恵」を受ける場面でのみ有効
誤解しやすいポイントは、どんな行動でも“させていただきます”を付ければ良いわけではない ということです。
📌 有効なケース(相手の許可・恩恵がある場合)
-
「担当を務めさせていただきます」
-
「資料を拝見させていただきます」
📌 不自然なケース(自分の意志でできる行為)
-
「明日出社させていただきます」 → 許可は不要なので「出社いたします」で十分
-
「資料を作成させていただきます」 → 自分の業務なので「作成いたします」で自然
このように、相手の了承や支えが不可欠な行為にだけ使う のが基本ルールです。
✅ ポイント整理
-
「させていただきます」は “自分の行為が相手のおかげで成立する時” に使う
-
許可や恩恵が不要な日常的な業務では「いたします」「します」で十分
-
使い分けを意識することで、言葉の重さが正しく伝わる
代わりに使える!スマートな言い換え表現

「させていただきます」は便利な敬語ですが、連発するとくどくなりがちです。そこで大切なのが、適切な言い換えを身につけること。シンプルかつ自然な敬語表現を選ぶことで、相手に誠意を伝えつつ、読みやすくスマートな文章になります。
「いたします」でシンプルに言い換える
最も使いやすい代替表現が「いたします」です。
「〜させていただきます」と比べて文章がすっきりし、相手に伝わりやすくなります。
📌 例:
-
❌「本日、資料を送付させていただきます」
-
⭕「本日、資料を送付いたします」
「いたします」はビジネスの場で幅広く使えるため、迷ったらこちらを優先するのがおすすめです。
「〜します」「〜いたします」を状況で使い分け
さらに言葉をシンプルにするなら、「〜します」も有効です。
-
フォーマルな場面:取引先や目上の相手には「〜いたします」
-
カジュアルな場面:社内や同僚へのやりとりなら「〜します」
📌 例:
-
社内チャット → 「明日提出します」
-
取引先メール → 「明日提出いたします」
このように使い分けることで、過剰に丁寧すぎず、相手との距離感に合った表現になります。
自然で伝わりやすい表現例
言い換えのコツは「相手にわかりやすく、自然に伝える」ことです。
📌 よくある場面の改善例
-
❌「ご確認させていただきます」
⭕「確認いたします」/「確認します」 -
❌「ご案内させていただきます」
⭕「ご案内いたします」 -
❌「説明させていただきます」
⭕「ご説明いたします」 -
❌「連絡させていただきます」
⭕「ご連絡いたします」/「ご連絡します」
こうした言い換えを取り入れるだけで、文章がすっきりとし、相手にストレスを与えない読みやすい敬語になります。
✅ ポイントまとめ
-
「いたします」でシンプルに置き換える
-
「〜します」「〜いたします」を相手との距離感で使い分ける
-
過剰にへりくだらず、誠意が自然に伝わる表現を選ぶ
よくあるシーン別|敬語の改善ポイント

「させていただきます」を正しく使い分けるためには、シーンごとの適切な敬語表現を意識することが大切です。ここでは、特に使用頻度の高い メール・電話・上司や取引先とのやりとり を取り上げ、改善のヒントを紹介します。
メール・ビジネス文書での適切な表現
メールや報告書では「させていただきます」を多用すると文章が重くなり、読み手に負担をかけます。シンプルかつ正確な敬語に置き換えることが効果的です。
📌 改善例
-
❌「資料を送付させていただきます」
⭕「資料を送付いたします」 -
❌「ご確認させていただけますと幸いです」
⭕「ご確認いただけますと幸いです」 -
❌「本日説明させていただきます」
⭕「本日ご説明いたします」
ポイント:メールでは「ご+動詞+いたします」が自然で読みやすい表現になります。
電話・会話での言葉の選び方
会話では文章ほど長さを意識しなくても良いですが、くどい敬語は聞き手に違和感を与えます。相手がすぐ理解できる、簡潔な表現を選ぶのがコツです。
📌 改善例
-
❌「ただいま折り返しご連絡させていただきます」
⭕「ただいま折り返しご連絡いたします」 -
❌「明日の会議に出席させていただきます」
⭕「明日の会議に出席いたします」
ポイント:電話では「させていただきます」を省き、テンポの良い会話を意識すると好印象につながります。
上司・取引先に使う際の注意点
特に注意したいのは、目上の人や取引先とのやりとりです。過剰に「させていただきます」を使うと、かえって言葉に責任感がなく、頼りない印象を与えかねません。
📌 注意すべき例
-
❌「今後も努力させていただきます」 → 他人事のように聞こえる
-
⭕「今後も努力いたします」 → 自分の責任で取り組む意思が伝わる
-
❌「提案させていただきます」 → 許可を求めているようで弱い印象
-
⭕「ご提案いたします」 → 相手を立てつつ主体性もある
ポイント:上司や取引先には「いたします」「ご〜いたします」を基本にし、責任感と誠意が伝わる表現を選ぶことが大切です。
✅ まとめ
-
メール:文章が重くならないよう「ご〜いたします」で簡潔に
-
電話:テンポを重視し「させていただきます」を省く
-
上司・取引先:責任感を示せる表現に置き換える
丁寧=くどい?誠意が伝わる言葉遣いとは

丁寧に話そうとするあまり、「させていただきます」を何度も繰り返す人は少なくありません。けれども、丁寧さ=長い表現 ではないのが敬語の奥深いところです。むしろ、くどさを感じさせないシンプルな言葉遣いこそ、相手に誠意を伝えるカギとなります。
「相手目線」で言葉を選ぶ重要性
言葉遣いで最も大切なのは、相手がどう受け取るか です。
-
自分目線 → 「失礼がないように、とにかく丁寧に言おう」
-
相手目線 → 「相手が理解しやすく、気持ちよく受け取れる表現にしよう」
この違いが、言葉の印象を大きく変えます。
📌 例:
-
自分本位:「後ほど改めてご説明させていただきます」
-
相手目線:「後ほど改めてご説明いたします」
前者はくどさが目立ち、後者はスッキリして誠意が伝わりやすい表現です。
つまり、「相手が聞いて心地よいかどうか」を基準に選ぶことが、結果的に信頼につながります。
シンプルさが信頼感につながる理由
シンプルな言葉は「わかりやすさ」と「誠実さ」を同時に伝えます。
-
回りくどさがない → 内容がすぐに理解できる
-
言い切る強さがある → 責任感や主体性が伝わる
-
文章にリズムが出る → 相手がストレスなく受け取れる
📌 例:
-
❌「引き続き努力させていただきます」
-
⭕「引き続き努力いたします」
後者の方がシンプルで、相手に「この人は本気で取り組んでいる」という安心感を与えます。
✅ ポイントまとめ
-
丁寧さは「長さ」ではなく「伝わりやすさ」
-
相手目線で考えると、自然にシンプルな表現が選べる
-
シンプルな言葉は責任感や誠意を示し、信頼を高める
まとめ|敬語は「多用」より「適所」で使うのがカギ

敬語は多ければ多いほど良い、というわけではありません。大切なのは「誰に」「どんな状況で」伝えるかに応じて、最も自然で誠意が伝わる表現を選ぶことです。相手に過剰さを感じさせず、必要な場面で的確に使うことが、結果的に信頼感を高めます。
「させていただきます」は“万能”ではない
ビジネスの場で頻出する「させていただきます」ですが、常に使えば良いというものではありません。自分の行為に許可や恩恵の意味が含まれない場合には「〜します」で十分です。
例:
-
NG:「資料を確認させていただきます」
-
OK:「資料を確認します」
相手に“へりくだりすぎ”と感じさせないためにも、シンプルな言い回しを選ぶ習慣をつけましょう。
正しい使い分けで信頼される言葉遣いを
敬語の本来の目的は「相手を尊重し、気持ちよくコミュニケーションをとること」です。過剰な丁寧表現ではなく、状況に応じた適切な敬語を使うことが、誠実さや知性として評価されます。
-
フォーマルな文書:正しい敬語を端的に
-
会話や電話:わかりやすく聞き取りやすい言葉を優先
-
上司や取引先:必要な敬語を押さえつつ、過度にへりくだらない
このように「適所」で使い分けることで、相手から「信頼できる人」として認識されるのです。
入社1年目から好かれる人の敬語・話し方のビジネスマナー🔻


